鎌倉彫道友会のシンボルリーフ:四葉のクローバーです。 鎌倉彫道友会 道具道楽
    
『天然砥石の部屋』

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【目次】NO1.丸尾山 大上梨地&敷内曇り 
    NO2.純三河白名倉&その他の名倉砥



『天然砥石の部屋』へ、ようこそ!!

ここでは、
“天然砥石”の種類・銘柄・使い方・お手入れ方法などについて、これまでの体験を交えながら、お話ししてみようと思います。

“砥石沼”にはまってそろそろ10年目・・・。
“天然砥石シンドローム”からなかなか抜け出せない講師が、少しずつ収集した手持ちの砥石をご紹介しながら、それぞれの石の個性や魅力、用途について、現在の感想を思うままにお話ししたいと思っています。
(でも、それほど高価な砥石は登場しませんので、あまり期待なさらないようにお願いします。)

取りあげる砥石については、産地・採掘層・銘柄・特徴・用途・養生方法などについて、分かる範囲で順次ご案内する予定です。
【注】ただし、天然砥石は“個体差”が激しく、刃物・研ぎ手との“相性”によっても豹変しますので、ここでご紹介したのと「同じ産地・採掘層・銘柄・容貌」の石であっても、まったく別の性能を発揮する(あるいはまったく発揮しない)場合もあり得ます。
砥石を選ぶ時は、普段使っている刃物で実際に試し研ぎをして、納得の上で購入して下さい。


各種刃物を扱われるご専門の研ぎ師さん・職人さんがご覧になる場合、
それぞれの流儀や扱い方の違いによって、首をひねりたくなるような記述もあるかもしれませんが、
「まぁ、こんなやり方もあるのかな〜」くらいに軽く読んでいただいて、ご海容くださると、ありがたいです。

もし、明らかな誤記などがありましたら、ご面倒ですが、メール・FAX・電話等でご教示ください。
天然砥石について、それほど詳しいわけではないので、
自分なりに勉強し直すつもりで、少しずつ書き進めて行きたいと思っています。
どうぞよろしくお願いいたします。

天然砥石たちの集合写真です。
(↑)ご紹介する天然砥石の一部です。
中砥・巣板・合砥(あわせど)など、京都天然砥石をはじめ、
色々な産地の石があります。
コッパ〜60型くらいのサイズが多いです。


※天然砥石は、日本の伝統文化を根底から支えてきた“根っこ”です。
枝葉を健やかに保つためにも、根っこを大切に守り育みましょう!!


Collection NO.1   
『丸尾山 大上(だいじょう) 梨地 コッパ』              &
『丸尾山 敷内曇り
(しきうちぐもり) コッパ』



『丸尾山』は、京都亀岡にある丹波系本口成り(ほんくちなおり)の砥石山です。
( 詳しくはこちらをクリックしてください!:砥取家さん
   http://www.toishi.jp/maruo.html
 )
今回は、その丸尾山の「大上 梨地」「敷内曇り」をご紹介します。

まずは用語のご説明です。

※大上(だいじょう)・・・
本口成りの砥石山には、上から順に――、
@赤ピンA天井巣板(てんじょうすいた)B八枚C千枚
D戸前(とまえ)E合さ(あいさ)F並砥(なみと)〜大上
G敷巣板(しきすいた。※『本巣板:ほんすいた』とも) 
H敷白(しきしろ)

――
の9つの採掘層があり、
上から7番目の採掘層である「並砥〜大上」の層が、
丸尾山では「大上」と総称されています。

「並砥」という呼び名には、“特上→上→並”というランク付けの“最下位”みたいなトホホな響きがあるので、
『品質的には“並”じゃない! “いに等”だ!』という気持ちを込めて、この名称が使われるようになったのではないかなぁ・・・と勝手に想像しています。
とにかく、「並砥」が『並みの砥石』というのは困った誤解で、ものによっては、戸前と同等かそれ以上の性能を持つ石も存在しますので、要注意です。

※梨地(なしじ)・・・
砥石に現れる特殊な模様の呼び名で、ご年配の砥石屋さんによれば、本来は漆器の梨地模様のような、『細かくてキラキラした金属粉蒔き』を連想させる、黄褐色〜黄色系の石肌を表現した言葉らしいです。
(“黄板(きいた)で梨地”などという言い方をします。これは最も上等の特別銘柄になります。)
しかし、最近では、
幸水梨や二十世紀梨の肌のような“まばらなソバカス系の模様”を、『梨地』と表現する場合がかなりあり、時代の移り変わりとともに、言葉の意味内容も変わりつつあるようです。
通常は、“戸前層”の特別銘柄ですが、今回のように大上の層に現れることもあります。

※敷内曇り(しきうちぐもり)・・・
『深い砥石層(=敷き)から採掘された“内曇り”』という意味の名称かと思います。
『内曇り(:地金を仕上げる“地引き”と、刃金を仕上げる“刃引き”の2種類があります)』は、
刀剣の仕上げ研ぎに用いる砥石で、通常は一番上層の“天井巣板”から採掘されますが、丸尾山では、この内曇り系の砥石が、“敷巣板層”の深部・上部からも採掘されました。
(一般的な“天上巣板の内曇り”については、後日また別の機会にご紹介する予定です。)
丸尾山の『敷内曇り』は、非常に研磨力が強く、硬度の高い刃金にも素早く実用的な刃を付けてくれます。

※コッパ・・・
砥石の端材で、不定形なものの総称です。
坐りが良くてサイズが合えば、彫刻刀用として充分に使えます。単純に“コッパだから”という理由で、“性能が劣る”ということはありません。
(たとえば、“サン型”と呼ばれる細長いサイズの石の中には、定型の石とは別次元の優れた性能を発揮するものがまじっている場合があります。)
コッパはお財布にも優しいので、いろいろな石を試してみたい人には、おススメです。
(ただし、ある程度の選別眼を肥やさないと、物置きにガラクタ石の山を築くことになります。)

◆以下、画像を交えてご説明します。

   丸尾山大上・敷内曇りの表面です。 
   丸尾山大上・敷内曇りの裏面です。
 @:砥石の表面です。
左が「敷内曇り」。白っぽい“ナマズ”が観察できます。
右が「大上梨地」。左肩に強い“梨地”が観察できます。
デジカメの発色が少し青っぽいです。
ほんとうの色は、全体にもう少し黄色いです。
  A:@を裏返したところです。
    “大上”は裏も面を付けて使っています。    
    黒く囲んである所は、まだ砥面が凹んでいる部分。
    彫刻刀を研ぐ時に、この部分を避けて研ぎます。
    砥石のこんな使い方を『貧乏研ぎ』と言います。笑
 大上のカドです。  敷内曇りのカドです。 
 B:“大上”のカドの拡大画像。養生のため、カシューが
  塗ってあります。左半分に“”が付いています。
 
 C:“敷内曇り”のカドです。
   こちらのカシューは塗りが薄めです。
   やはりが観察できます。
 
    大上の乾いた石肌です。  大上の濡れた石肌です。 
 D:乾いた“大上”の石肌の拡大写真です。
  この画像は、実際の色に近いと思います。いちおう
  梨地系ですが、“そばかす”も混じっています。
  この黄色の原料は“黄砂”だという説があります。
 E:Dを濡らした画像です。
   濡らしたとたんに黄色みが強くなって、
   蓮華っぽい赤い斑点が浮き出しました。
   う〜む、なんだか生き物みたいです〜!
   大上の研ぎ汁です。   大上の研磨条痕です。
 F:“大上”の研ぎ汁です。 中砥は『刃の黒幕#2000』。
  刃物は「青紙2号+極軟鉄地金」の切出し(三木産)。
  多めの水で、8×8=64往復、30秒くらい研ぎました。
  1ストロークは約5cmくらいです。
  黒色+灰色系の研ぎ汁がきれいに集まってます。
  地金も刃金もよく下ろしている感じです。
G:“大上”による研磨条痕です。
  上の濃い色が刃金。下が地金。
  2分間くらい研いで、実用レベルの刃を付けた画像です。
  だいたい25倍拡大の画像になりますが、
  デジカメのピントと解像力がイマイチです。。。
  もう少し撮影技術を磨かねば〜・・・汗
 敷内曇り”の乾いた石肌です。    敷内曇り”の濡れた石肌です。
 H:乾いた“敷内曇り”の石肌の拡大写真です。
  左に茶色いヒビがありますが、良く“枯れている”ので、
  研ぎには“無難”です。中央の赤いヒビっぽいものも、
  白い“ナマズ”を同伴してるので、まず“無難”です。
※枯れている:もろくて砕けやすいこと。(→刃物にキズが入りにくい。)
※無難(ぶなん):刃物を研ぐ上で、支障が無いこと。
   I:Hを濡らした画像です。
   右下の方に赤っぽい“蓮華”の模様が浮き出しました。
   きれいです〜♪
 敷内曇り”の研ぎ汁です。   敷内曇りの研磨条痕です。
 J:“敷内曇り”の研ぎ汁です。条件はFと同じです。
   素晴らしく灰色です。
   刃金をたくさん下ろした感じです。
   刃の黒幕#2000の研磨条痕です。
 L:参考のため、刃の黒幕#2000の
  
研磨条痕を貼付します。
  上部3分の1が、刃金です。
 K:“敷内曇り”の研磨条痕(約25倍拡大) です。
  1分間ちょっと研いで、実用レベルの刃を付けました。
  15倍拡大鏡で目視すると、大上の時よりも、
  刃金にやや深い条痕が残っているのが観察できます。
                       (写りもやや白っぽいです。)

  これは中砥#2000の条痕の残骸ではなく、“敷内曇り”が
  自前でつけたものだと思われます。
  大上と比べてややきめが粗く、そのぶん刃金に対する
  研削力が強い印象があります。
  敷内曇りは、実際には比重0.5前後の
  “中硬度の木材(:ヒノキ・桂・朴・銀杏・楠など)”の
  繊維を断ち切るうえで、“鋭利“で“永切れ”のする
  素晴らしい刃を付けてくれます。
  “仕上げ彫り”には向きませんが、“中彫り”までは、すごく
  使える石です。

  HRC(:ロックウェル硬度)のポイントの高い刃物を、
  実用的に手早く下ろしてくれるのが嬉しいです。


【砥石ワンポイントメモ @拡大鏡で観察しよう】


砥石の性能や、砥石と刃物の相性を確かめたい時は、10倍〜15倍の拡大鏡で“刃付き(:“刃付け”とも)を観察すると良いです。
専門家は150倍くらいの顕微鏡で観察するようですが、
鎌倉彫などの木彫用の刃物の刃の具合を確認するのであれば、10〜15倍くらいで充分だと思います。
講師は、某大型手芸品店で400円で買ったちゃちな15倍マイクロスコープを愛用中ですが、
かなり調子良いです〜♪
30倍くらいになると、倒立像になって“目まい”がする場合があるそうですから、要注意です。
15倍で見ると、「ふむふむ・・・なるほど・・・」ということがいっぱいありますよ!

それでは今回はこの辺で。
次回は、
『純三河白名倉』の目白とコマをご紹介する予定です。
                    2012.4.29記

追記:研磨条痕の画像を撮り直し、刃の黒幕#2000の研磨条痕の画像を追加しました。あまり変わりばえがしませんが、今の腕とメカではこの辺が限界みたいです。。。m(_ _)m 4.30記

 青紙2号を大上で研いだ刃先。220倍率リサイズ。
(↑)丸尾山大上×青紙2号B 
    刃先の画像
◆USB顕微鏡の画像を追加します。
(220倍率の画像をリサイズ・トリミングしたものです。)


・名倉・共名倉などは使わず、
 砥面修正して水洗いした直後の“素の砥面”で研磨しました。
・黒幕2000での中研ぎ後に、切り刃の角度や力加減・水加減を統一し、
 “実用レベルの刃”が付くまで研ぎ込んで
 刃先の部分”を撮影しました。
・研磨条痕と刃先の鋸状凹凸が確認しやすいように、
 “斜め研ぎ”はせず、
 刃渡り線に対して直角方向に運刃して研いであります。

ちょっとした研ぎの力加減や、ピントの深度差、
撮影時のハーフトーン照明の当たり具合で、
画像の印象が大きく変化しますので、この画像だけで、
砥石の性能を判断するのは難しいところがあると思います。
あくまでも“参考”程度にご覧ください。

しかし、画像を見ると、
『大上の方が刃付きが細かくて、仕上げ彫りに向いていること』や、
『敷内曇りが付けた“鋸状の刃先の凹凸”が、
 中彫り時の“永切れ”に貢献しているらしいこと』
がよく分かり、つくづく「顕微鏡はすごいな〜」と感心します。。。

(※使用したUSB顕微鏡は“タモリ倶楽部”で紹介されたもので、
  AMAZON・ヤフー・楽天で、
  7〜8千円台で売っています。これ、面白いですよ〜
 青紙2号を敷内曇りで研いだ刃先。220倍率リサイズ。
(↑)丸尾山敷内曇り×青紙2号B 
    刃先の画像

                      2012.6.8再追記


Collection NO.2 純三河白名倉
 『目白
(めじろ)』 & 『コマ』
 &その他の名倉砥石
『対馬黒名倉』など)


◆『純三河白名倉』の等級、特徴、採掘層、使い方、歴史、画像資料については、大工道具の曼陀羅屋さん“純三河白名倉のページ”の末尾の当該項目をクリックしてご参照ください。(詳しい情報がたくさん紹介されていて、とても勉強になります。)

◆また、お手持ちの『純三河白名倉』の“真贋鑑定”に関しては、(株)トヨハシ理器さんの“研ぎ職人の部屋”をご覧ください。

以下、講師の手持ちの“ミカワジロ(:三河白名倉の通称)”の「目白」と「コマ」を、
画像をまじえてご案内します。

 目白特級上&コマ特級上(表) 
   目白特級上&コマ特級上(裏)
 ◆目白特級上(左)とコマ特級上(右)です。
純三河名白倉の「特級」には“縞模様”が入っていますが、画像の目白の縞はやや淡いです。
サイズは、右のコマが17×4.5×4.5cm、約500g。左の目白が18×10.5×3.5cm、約1130gです。






  ◆同じく裏面です。
  目白は表面裏面ともに似たような石質ですが、
  コマは表がかなり硬く、裏の方がすこし柔らか
  いです。
  目白は幅10cm以上あるので、大型の刃物を
  研ぐとき重宝してます。
  この目白特級上は“曼陀羅屋”さんで購入し
  ました。




   目白特級上の刻印    コマ特級上の刻印
 ◆検印と種別・等級の刻印です。
現在はトヨハシ理器の坂本守男さんと息子さんの耕紹さんが種別・等級を鑑定して刻印しておられます。
この刻印のある「ミカワジロ」は、“ハズレ”が無いと思います。
側面は、割れ止めと刻印の保護をかねて、カシューで養生してあります。





   ◆この「コマ」は、
   東京・恵比寿の「今西砥石商会」さんの大昔
   の在庫を分けてもらい、後日“トヨハシ理器”
   さんに種別と等級を鑑定してもらいました。
   本来は鑑定結果の通知だけで、刻印はしな
   いことになっているそうですが、このコマは
   「間違いなく純三河のコマ特級上である」
   とのことで、特例で刻印して下さいました。





  目白特級上の石肌(乾燥時)
   コマ特級上の石肌(乾燥時)
 ◆目白特級の石肌の拡大画像(:乾燥時)です。
白色系凝灰岩の滑らかな石肌に、褐色の淡い縞模様と、微細で不定形な赤い斑点がまばらに観察できます。
画像を横切る“毛筋”は、研ぐのに支障ありません。
が、毛筋から割れることがあるので、そんな時は卵白で固めると、研ぎの邪魔にならないそうです。(←曼陀羅屋さんから教わりました!)
「目白」の採掘層は砥石山の最上層に位置し、「コマ」とほぼ同等のキメ細かさをもつと言われます。




   ◆コマ特級の石肌の拡大画像(:乾燥時)です。
  このコマ特級は縞模様の褐色が濃く、赤色の
  斑点は丸味があって形状が揃っています。
  丸尾山の分析室のデータによると、丸尾山の
  “蓮華巣板” の赤い斑点の主成分は“石英・
  カーボン・アルミ”とのことですが、ミカワジロ
  の赤斑も似たようなものなのでしょうか。。。
  コマの採掘層は、12の層の上から5番目に
  位置し、京都天然砥石の“戸前”(:同じく5番
  目)をちょっと連想させます。






   目白特級上の石肌(水濡れ時)    コマ特級上の石肌(水濡れ時)
 ◆水に濡らした目白特級の石肌です。
乾燥時と比べると、明るいオレンジ色の発色が目立ち、なかなかきれいな石肌です。(画像がいまいちで、発色の変化が分かりにくく、すみません。)


   ◆同じく、水に濡らしたコマ特級の石肌です。
  色具合が冴えて、よく砥がす感じがします。
  天然砥石は、砥面の模様のバラエティが豊富
  で、ほんとに見飽きることがありません〜♪


 目白特級上の研ぎ汁  コマ特級上の研ぎ汁
 ◆目白特級の研ぎ汁です。
研磨の条件は丸尾山の時と同じで、中砥は『刃の黒幕#2000』。刃物は「青紙2号+極軟鉄地金」の切り出し(三木産)。多めの水で、軽く8×8=64往復、30秒くらい研ぎました。1ストロークは約5cmくらいです。
石質が緻密で細かいので、ザクザクと下ろす感じではありませんが、刃金も地金もかなりよく下ろしています。もともと刀剣研磨に使える石で、塗師包丁などの大型刃物に実用的な刃を手早く付けてくれるのが、ありがたいです。



   ◆コマ特級の研ぎ汁です。
  研磨の条件は、目白特級と同じにしたつもり
  ですが、石質が硬く、砥粒が細かいせいか、
  あまりたくさん研ぎ汁が出ません。
  しかし、そのわりに刃当たりはマイルドで、 
  青紙スーパー鋼のような硬くて粘りのある
  金属組織を無難にきめ細かく研ぎ上げて
  くれます。
  日本刀研ぎの終盤工程に使われる天然砥石
  でもあり、「さすがだなぁ」と思います。





 目白特級上による研磨条痕
   (↑)目白特級上×青紙2号B 刃先の画像
   コマ特級上による研磨条痕
   (↑)コマ特級上×青紙2号B 刃先の画像
 ◆目白特級上による研磨条痕の拡大画像です。(約220倍。リサイズ・トリミング済み。コマの条痕の画像も同じ倍率です。)
刃先がややノコギリ状で、永切れしそうです。黒幕2000から乗り換えて、実用的な刃がつくまでの時間は、刃表だけだと3分くらいかと思います。大平・新田の白系の巣板 とあまり変わらない仕上がりで、刃付きはまずまず細く、一般的な木彫の仕上げ彫り用として充分に使える感じです。 
※撮影条件により画像の印象が大きく変わるので、
“参考”程度にご覧ください。







   ◆コマ特級上による研磨条痕の拡大画像。
  刃先の凹凸のきめが細かく、直線的で粒が揃
  っていて、一目で“最終仕上げ彫り”に使える
  仕上がりだと分かります。
  京都天然砥石の本山(ほんやま)の合砥(あわせど)
   
と比べても、ほとんど遜色のない仕上がりでは
  ないでしょうか。
  ただし、黒幕2000からいきなり乗り換えるのは
  無理があり、ここまで研ぎ込むのに5分以上か
  かってしまいました。
  体験的には、「黒幕2000→キング4000」と乗り
  換えて、そのあとコマ特級で研ぐのが良いので
  はないかと思います。
  「コマ特級上」で研いだ刃は、切れ味が明快で
  永切れする傾向が強いように思います。
  ※撮影条件により画像の印象が大きく変わるので、
   “参考”程度にご覧ください。

 


【砥石ワンポイントメモ Aいろいろな名倉砥】

今回は、仕上げ研ぎ用の合砥(:あわせど)として、縞模様の入った大きめの「目白」と「コマ」をご紹介しましたが、“純三河白名倉”というと、合砥の“目立て”“潤滑剤”として用いる小型の“名倉砥(なぐらど)”のイメージほうが、よりポピュラーであるかもしれません。

以下にそのような小型の純三河白名倉を、いくつかご紹介したいと思います。(※名倉の刻印のある面には退色防止をかねてカシューを薄く塗ってあります。)
純三河白名倉ラインナップ
@    A   B   C   D
@目白別上&砥面 A天上特級&天上別上の砥面 Bコマ別上&砥面 
Cボタン特級&砥面 D八重ボタン&砥面


@目白別上
・・・“目白”は12層ある採掘層の最上層の名称で、 “別上”というのは、白物で不定形なタイプのものです。(角物(かどもの)“別大上”と呼ばれます。)
“目白”は、“コマ”に匹敵する砥粒の細かさで、初めて使う名倉砥として“最適”といわれます。
画像(砥面)のグレーの“墨流し系”の目白は、“純白系”の目白に比べるとやや粒度が粗いですが、そのぶん硬度が高く研磨力も強いように感じます。

A天上特級&別上
・・・“天上(てんじょう)は12層ある採掘層の2番目と3番目の層の名称です。“特級”というのは、縞物で不定形なタイプのもの。(角物(かどもの)“特級上”と呼ばれます。)
天上は、たまに砂をかむ場合があるらしいですが、講師にはまだそういう経験はありません。(あちこちに“気泡”っぽい小孔は観察できますが。。。)
縞物である“特級”はそれなりに硬いですが、画像(砥面)みたいな白物系の“天上別上”は柔らかく、研ぎ汁を手早くたくさん出すことができます。
この石は砥面の面積が広いので、金切り鋸で溝を掘って、合砥に吸いつき難いようにしてあります。(溝は釘でも掘れます。) また、名倉が合砥に吸いついたときは、そのままバケツに浸すなどして水に馴染ませると、自然にはがれます。

Bコマ別上
・・・“コマ”は12層ある採掘層の5番目の層の名称です。(4番目の層は“ぶちこう”とよばれる非採掘層です。) 
この“コマ別上”の砥面の画像を見ると、グレーの細かい斑点が観察できますが、これが白物系のコマの特徴の一つであるようです。“コマ”は、純三河白名倉の中で、砥粒のキメがもっとも細やかな層です。

Cボタン特級
・・・“ボタン”は12層ある採掘層の6番目の層の名称です。7層目の“八重(やえ)ボタン”と並んで、最も研磨力が優れますが、目白・天上・コマに比べると粒度は粗いと言われます。
粗い“砂の層”が必ず1本入るため、層に触らぬように“板目の砥面(とづら)を使うようにします。
画像の石は全体に褐色系で、目立った縞模様は見られませんが、“特級”と刻印されています。研磨力は手持ちの名倉の中では、八重ボタンと並んで“最大級”で、研ぎ込んで砥面がツルツルになった合砥の“目立て用”として重宝しています。

D八重ボタン
・・・“八重ボタン”は第7番目の層の名称です。この“八重ボタン”は白物系ですが、縞物系の“特級”もあるようです。
砥面の画像を見ると、“コマ別上”と似通ったグレーの斑点がありますが、手持ちコマと見比べると八重ボタンの方が、3〜4倍くらい斑点のサイズが粗く大きいです。
画像の石は名倉としてはかなり大きいものですが、砥粒が粗いせいか、たっぷり水を含ませて使うと、吸いつくことはほとんどありません。ミカワジロに限らず、天然砥石は水をきちんと含ませて使うことが大切であると思います。


この他にも、さらに粗くて硬い“あつ(9番目の層)”“ばん(10番目の層)と呼ばれる層(:中名倉として用いる層)が2つありますが、彫刻刀用としてはあまり馴染みがない層だと思うので、それらのご紹介はまた別の機会に譲りたいと思います。


その他の名倉砥石たち
対馬黒名倉&丹波系黒名倉刻印の無いミカワジロ
@     A    B     C    D
@対馬黒名倉の養生済みの側面  A対馬黒名倉の砥面に入ったヒビ割れ B対馬黒名倉の砥面の細かい引き傷 C丹波の黒名倉? 
D浅野検印が無い“ミカワジロ”(約5cm四方,2センチ厚)
                            


対馬黒名倉産(40入り型)布着せ養生済み  対馬黒名倉による研磨条痕
E対馬黒名倉      F対馬黒名倉×青紙2号B 
               刃先の拡大画像
(約220倍率)
※顕微鏡写真は、撮影条件により画像の印象が大きく変わるので、“参考”程度にご覧ください。


画像@〜Bは、長崎県対馬(つしま)の海産の黒名倉(くろなぐら)の画像です。
※「対馬黒名倉」には、海産山産がありますが、現在の市場品はほとんどが海産のようです。手持ちの山産の対馬黒名倉は、側面に堆積層の淡い縞模様が観察でき、海産に比べるといくらか砥粒が細かくて、硬いです。山産の対馬黒名倉も、いずれこのHPでご紹介するつもりです。】

◆対馬黒名倉は堆積層に沿って“ヒビ割れ”が生じやすいので(画像A)、タコ糸を巻いて養生して(画像@)、“柾目の砥面”を使うようにします。

画像@では、砥石の角に金切り鋸で浅い溝を掘り、その溝にタコ糸の結び玉を引っかけ、そのあと側面をぐるぐる巻きにして、最後に黒漆で塗り固めて養生しています。(使い込んで名倉が減ってきたら、糸を一段づつほどいて行きます。)

もっとも、ヒビ割れして適度に薄くなった黒名倉の“板目の砥面”を愛用する職人さんもいるので、すべての黒名倉を必ず養生しなければならないというわけではないと思います。

◆対馬黒名倉を“人造の仕上げ砥石”に使う場合もあると思いますが、相性が合わないと不具合が生じる場合があり、要注意です。
(例えば、アルカリ性の研ぎ汁が出る海産の対馬黒名倉を、“エビ純白8000番”に使い続けると、かなり高い確率で、エビ純白の砥面に亀甲型のクラック(:ひび割れ)が発生します。)
試行錯誤しないと結論を出せないケースも多いと思いますが、高価な人造砥に天然名倉を使う時は、慎重を期するほうが良いと思います。
対馬黒名倉と人造砥石との相性は、“人造砥の変質防止”という点だけに絞って考えると、総合的に“イマイチ”のように感じます。。。研ぎ汁がアルカリ性だからでしょうか。。。?

◆また、合砥の“筋・割れ”“針気(はりけ)”が刃物にどの程度のダメージを与えるかについては、合砥を摺った黒名倉の砥面を観察することによって、ある程度まで判断できます。
画像Bは針気(:砥粒が鋭く硬く尖りすぎていること。刃物がキズ付く危険性があります。)のある合砥を、“対馬黒名倉”で水擦りしたあとの画像ですが、乾いた黒名倉の砥面に“白い細い筋”が観察できます。
このての引きキズを黒名倉にたくさん残す合砥は、彫刻刀を研ぐのには向いていません。試し研ぎをするまでも無く、購入を見合わせた方が賢明だろうと思います。

画像Cは、
“丹波(:たんば。京都天然砥石の産地。西方の山系)の合砥”と呼ばれる黒っぽい砥石を名倉サイズに整形して、黒名倉として使い込んだもの――と思われます。
某砥石山のオーナーさんの形見の御品で、その奥様からご好意で譲り受けたました。
そのオーナーさんは鎌倉彫の熱心な愛好家でもあり、ご愛用の本山(ほんやま)系の極上の合砥を、この“丹波の黒名倉”とおぼしき石で擦って使ってみえました。

よく見ると、砥面にゴマ斑(ふ)状の濃い斑点が散らばっており、対馬黒名倉のチャコールグレー系の無表情な砥面とは、明らかに趣きを異にしています。(画像では分かりにくいですが、手持ちの砥石と見比べると、馬路山の石の砥面にかなり似ています。)
使い勝手はたいへん良く、個人的には対馬黒名倉よりも手早く永切れする刃がつく印象があります。
「本山系合砥×丹波系の黒名倉」は、砥石を知り尽くした山主さんが選んだ“極上の組み合わせ”で、これを初めて使ったときは、“なるほどなぁ”と感心することしきりでした。

“合砥(あわせど)という呼び名の語源については――、
「刃物・研ぎ手の個性に砥石を合せる」「砥面と切り刃の面を合せる」「研ぎ手が砥石に調子を合わせる」
――などの諸説があるようですが、
「仕上げ砥と名倉砥の相性を見極めて、用途に合わせていろいろに組み合わせる」
――
という意味合いも含まれているように感じます。

「丹波の黒名倉」は、そのような実感をもつ良いきっかけになりました。

それ以来、講師は、『高島敷巣板×丹波系黒名倉』『中山戸前×新田巣無し巣板 』『大突(おおづく)アサギ×大平白巣板』『奥殿(おくど)巣板×丸尾山敷戸前 』などの『合砥×名倉砥』の組み合わせを試しつつ、研ぎ味や研ぎ上がりの違いを楽しんでいます。

画像Dは“純三河白名倉”の刻印が無い、素性のはっきりしない“ミカワジロ”です。
この石は砥粒が粗く、仕上げ研ぎには向かないと思いますが、“あつ”“ばん”“沼田砥”“伊予砥”“青砥”等の天然中砥と組み合わせると、微妙な“番手調整”や思いがけない“研ぎ味”を楽しめます。
いわゆる生粋の“純三河白名倉”ではありませんが、この石にはこの石なりの“存在価値”があるように感じます。

画像EFは、“対馬黒名倉”の「サン型40入りサイズ(21×4.5×4.5cm)」の布着せ養生済みの画像と、その研磨条痕の拡大画像(約220倍率)です。
画像の石は30年位前に今西砥石商会さんで購入したもので、“割れ止め”のために麻布を着せて黒中漆で塗り固めてありますが、カシューを塗ってもOKです。
対馬黒名倉による研磨条痕は、純三河白名倉のコマや目白に比べると、かなり粗い感じがします。
「対馬黒名倉は、布や紙の繊維を裁ち切る刃を付けるのに調子が良く、永切れする傾向がある」と教えてくれた研ぎ職人さんがおられましたが、研いでみると本当にその通りだと実感します。



●――以上で今回の『純三河白名倉&その他の名倉砥』終わりますが、“ミカワジロ”は、日本刀のような大型の刃物を効率よくきちっと研ぎ上げるという点で、つくづく、「すごい石だな〜」、と思います。

“三河”といえば徳川家康のホームグラウンドで、信長・秀吉を輩出した“尾張”とも隣接するエリアですが、こんな良砥を産出するお山が身近にあったという“地の利”は、往時の武将たちにとって、たいへん心強い“武運の支え”だったことでしょう。
(戦国時代の実戦では、「刀」よりも「矢・槍・鉄砲」が重んじられたようですが、そうした武器もつまるところ“鍛冶仕事の産物”ですから、効率の良い“良砥”の需要は非常に高かっただろうと思います。)

「戦国武将と砥石山」「戦国武将と刀鍛冶・鉄砲鍛冶」・・・いにしえの歴史ロマンをかきたてる“ミカワジロ”を、ご覧の皆さんもぜひ一度お試しくださいませ!

*次回は「マルカ 純真正本山」(中山の合砥)をご紹介する予定です。
                  (2013年5月18日記)


                  ――つづく――
                                                  
鎌倉彫道友会の看板猫:タマの寝顔です。

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