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鎌倉彫の“職人的用語集”

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  その1 小刀の形状に関する用語 

 ◆下の画像は、左小信さんの「三分(約9ミリ幅)の右小刀(みぎこがたな)」の、
 納品時の“刃表(はおもて)”を拡大したものです。
 撮影技術が拙く、写りがイマイチですが、画像を見ると、
 刃金と地金の研ぎ色がくっきりと研ぎ分けられていて、とても美しいです。
 
 昔から『刃は白く、地は蒼く(または“黒く”)研ぐべし』と言われていて
     (↑たぶんもともとは、日本刀の研ぎ師様たちの仕事上の格言だと思います)、
 彫刻刀も、天然砥石で研いだ時の本来の仕上がりは、このような色具合が理想でした。
 (人造砥石だと、全面ピカピカの“鏡面”になる場合が多いですが。。。)

             右小刀の刃表の画像です (←右小刀の刃表)     

 ◆まずは、上の画像の左上の、一番とがった60度くらいのカド(切っ先)ところですが――、
 私が初めて研ぎと薬研彫りを教わった先生は、ここを『ハナ』と呼んでいました。
 今でも、工房や教室でこの呼び方をする人は、多いと思います。

 次いで画像の、右下の部分、
 ――ハナから始まった刃渡り線の終点部の、120度くらいのカドの部分――を、
 『アゴ』と呼びます。

 ・ハナを鋭角に研げば、曲線部の立ちこみなどの“小回りの良さ”が求められるシーンで、有利です。
 ・逆にハナを鈍角の研げば、直線部を“まっすぐに”立ちこむにのに有利です。
 
 となると・・・『直線と曲線を、それぞれ、そこそこ立ちこみやすいハナの角度はどれくらいか?』・・・
 ということになりますが、 教室の生徒さんの場合、
 “だいたい60度くらい”に研ぐのが、使いやすいようです。
 ハナ先(はなさき・はなっつぁき)部分に斜めに定規を当てて、
 定規からはみ出した“ハナ先の三角形”が『正三角形』に近ければ、
 “だいたい60度くらい”の目安になります。
 
 右小刀は、“引き刀”の運刀技法などで、“キワをさらう”時にも使いますので、
 自分に一番使いやすいハナ先の角度を――図案の内容にもよっても変わりますが――、
 自分なりに工夫して“随時調整すること”が大切です。

 理屈の上では、アゴを研ぎ下ろせば下ろすほど、ハナの角度は鋭角になります。
 運刀の技が進むと、このアゴの部分をいろいろに利用して彫刻することがあり、
 その意味で、アゴはけっこう大切です。。。
 (一例:平櫛田中先生の小刀には、“二段構えのアゴ”をもつものがあります。)


 ◆また、研ぎで調整する“刃の切りこみ角度”のことを、『切り刃』『切り刃の角度』などと言います。
 ・カミソリみたいな鋭利な“切り刃”(=研ぎだした“刃金+地金部分の幅”の広いもの)を、
  職人さんは『大刃(おおば、おおっぱ)』『薄刃(うすば)(うすっぱ)』、などと呼びます。
 ・逆に、斧やナタみたいな鈍角な切り刃(=研ぎだした“刃金+地金部分の幅”の狭いもの)は、
  『小刃(こば)』『厚刃(あつば、あつっぱ)』などと呼ばれます。
 これらの呼び名は、お師匠さんによって言い回し(アクセントの置きどころなど)に若干の違いがあり、
 注意深く聞くと、その職人さんの出自などをおおまかに推察できることがあります。

 ・薄刃は、よく切れますが“刃こぼれ・刃欠け”しやすいです。
 ・厚刃は、“刃こぼれ・刃欠け”はしにくいですが、
  力ずくで彫ることになるので、“腱鞘炎”などの不具合を生じやすいです。
 これもハナ先の角度と同じで、“痛し痒し”の要素がありますが、
 “今の自分に合った角度”を“自分自身で割り出して行く”のが一番良いと思います。

 ◆次は“刃裏(はうら)”の画像です↓。
 

   右小刀の刃裏の画像です (←@小信さんの右小刀の刃裏) 地金の部分を玄翁で叩いた痕です (←A地金の部分を玄翁で叩いたあと。
                                                  …調整のためアゴを強めに叩いてあります。)

                       右小刀の糸刃裏の画像です (←Bちょっと太めな“糸刃裏”です。
                                  見やすいように人造砥石で光らせてあります。
                                  アサリ目は漆を塗って錆止めしてます)

                                       

 左上の画像@は、同じく小信さんの右小刀の“刃裏”です。(写真の刃先に埃がついてました……小信さん、スミマセン)
 縦に細い筋がはいっている銀色の山型の部分を、『アサリ目』・『ヤスリ目』などと呼びます。
 ※“アサル”という言葉に『アールをつけて窪ませる』という意味があるようです。

 この部分は、鍛冶屋さんの鍛造技術と金剛砥掛けのおかげで、“きわめてゆるい船底型”に窪んでいます。
 (※鍛造の過程で刃裏にゆるいアールをつけて窪ませたあと、金剛砥を掛けて凹凸をならし、
    そのあと焼きを入れて、もう一度、♯100番くらいの金剛砥を掛けると、『アサリ目』が仕上がります。
    かつては金剛砥ではなく、“銑
(セン)”という道具を使ってこの作業していたそうです・・・以上の()内は小信さんのご説明の要約です。

 この状態で、刃表側の“切り刃の地金(じがね)の部分”を
 玄翁で叩いて“刃裏出し・裏出し”を行い(※上の写真Aをご参照下さい。※注意:必ず金床の上で叩きます)
 そのあと“裏押し(=指先にやや力を入れて押すように刃裏を研ぐことをすると、
 いわゆる“糸刃(いとは・いとば)”の刃裏が出て(※上の写真Bをご参照下さい)
 
その後の裏研ぎの効率が良くなり、刃物の切れ味や永切れ(ながぎれ)の度合いが向上します。
 (※糸刃裏にすると、次回の刀研ぎ(とうとぎ)の際に、
   返り(=刃表研ぎの結果、刃先の刃金が刃裏側にわずかに反り返ること)を確認して、裏研ぎをすると、
   すぐに返りが取れて、刀研ぎが完了します。少し切れ止んだ(=切れ味が衰えた)場合でも、
   刃表を研がずに刃裏をちょっと押すだけで、切れ味が再生することもあります。
   ――ただし、作品の彫刻面に刃裏を当ててキワをさらうような使い方をする彫り手の中には、
   “糸刃裏”をきらう職人さんもいます。)
    ※“彫刻刀の柄付け〜裏出し・裏押し〜仕上げ研ぎまでの工程”については、
     『道具道楽・彫刻刀の部屋:その1』のページで解説していますので、ご参照ください。

 
左上の小信さんの小刀の写真@の、
 アサリ目の周囲の濃いグレーの部分(実際はもっと銀色に光ってます)が、
 砥石で裏押しして研ぎ出した“刃裏面(はうらめん)で、
 生徒さんの場合、まずはこの面を“完全な平面”に研げるようにするのが“裏研ぎ・裏押し”の基本となります。


            ――ということで、今回は“小刀にまつわる用語説明”でした。
              
              上記の他にも、“丸っ刃(まるっぱ)”とか“出ッ腹(でっぱら)”とか“アール刃研ぎ”とか、
              いろんな用語がありますが、それはまた追々お話して行きたいと思います。

              次回は、“平刀と丸刀の用語”を予定しています。m(_ _)m


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