鎌倉彫の塗りの工程

      (その1:検品〜木地調整)

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概説

0.検品(:大キズ見・大仕分け)
  まず、作品の“工芸美・使い易さ・丈夫さ”に影響する木地の大きなキズ、
  例えば、ヒビ・割れ・欠け・凹み・木肌の荒れ・フシ・はぎ目・ろくろの爪跡…等をチェック
して、
  見落としの無いように水性ペンで印をつけます。

  また、
  ・作品の種類(:箱物類、盒子類、盆、皿、鉢、椀、手鏡、茶托、小間物、置物、掛物、組立物…等)
  ・塗りの色合い
  ・塗りの加飾技法
   ――などの異同に応じて、作品をグループごとに仕分けます。

  『検品』は、塗師と彫り物との“初顔合わせの場”です。
  塗師(ぬし)は、ここで作品の特徴や器物の瑕疵を点検し、
  今回の塗り仕事の全体的な“手順・段取り”を構想します。

1.コクソ彫り
  ヒビ・割れ・フシ・はぎ目・ろくろの爪跡などを、
  1分5厘〜3分の丸刀・浅丸刀で彫り窪ませ、
  補強用の布やコクソを充填するための“凹み”を作ります。
  コクソは乾くと“痩せる(=ボリュームが目減りする)”ので、深すぎる凹みはNGです。
  かといって、浅すぎると補強用の布が露出したり、コクソがぽろ欠け(=ポロっと欠けること)したりします。
  過不足の無い適度な凹みを彫ることが重要です。

2.コクソかい
  米飯をつぶして加水して練った糊(=続飯:そくい下地用生漆(きうるし)を交ぜて“糊漆”を作り、
  これに木粉(主にケヤキ・ツゲ)・コクソ綿(麻の繊維)を適量加えて、『コクソ』を作ります。
  (※加水加熱した小麦粉と生漆を交ぜ合わせる場合もあります。小麦粉から作った麦漆は“シン”と呼ばれます。)
  この『コクソ』で、
  ヒビ・割れ・欠け・凹み・木肌の荒れ・フシ・はぎ目・ろくろの爪跡などを修繕・補強するのが、
  『コクソかい』『コクソかい込み』です。
  ※“かい”は“鍵を支う(かう)”という言い回しと同じで、「あてがって固定する、支え固める」というほどの意味かと思われます。
    また、“かい込み”は『掻き込み』の訛りだろう、という説もあります。
    工房では『ここのところ、ちょっと、コクソをかっておいてくれ』などどいう言い方をします。


  コクソは“痩せ”が止んで乾ききるのに、季節によって“3日〜1週間”ほどかかります。
  “痩せ”の進行中に短気を起こしてコクソを切ると、コクソ部分の凹みが目立つ仕上がりとなって、
  塗りの完成度に悪影響が出ることがあります。

3.こくそ切り
  乾いたコクソを、刃物で切って整形する工程です。

4.木地調整(=面取り・空(から)ペーパーあて)
  “面取り”は、器物のカド・彫刻のカドに、紙ヤスリ(時に鉋をかける工程です。
  この工程も“加減”が大切で、やり過ぎると作品の緊張感が台無しになりますし、
  やり足りないとカドの漆の塗膜が薄くなって、漆器としての耐用年数が短かくなります。

  “ペーパーあて”は、木地の平面〜曲面を調整し、木肌のキメを平均化しながら、
  木地の表面の繊維を微細に毛羽立たせる工程です。
  こうすることで、次工程の木固めの下地漆が、木地の繊維孔へ均一に「浸潤」しやすくなり、
  乾燥後には毛羽立った繊維が繊維孔を塞ぐので、適度な「目止め効果」が得られます。
  「下地塗り」の基礎条件を整備するという意味で、“ペーパーあて”はとても重要です。

  ※生徒さんの作品は、“ペーパーあて”の段階で彫りの突端部がポロ欠けして、
   「コクソかい」の二度手間が生じる場合がある
ので、
   本来の工程順序を一部分だけ変えて、
   “ペーパーあて”→“赤ペン入れ”→“コクソかい”→“こくそ切り”→“コクソ部分のぺーパーあて”
   の順に作業することもあります。


【以下、実際の例を画像で解説します】

  ろくろの爪痕1
  盆裏に残った
  ロクロの爪痕です。
ろくろの爪痕2
1分5厘の浅丸でコクソ彫り
 ろくろの爪痕3
 コクソ彫り完了。ここに、
 コクソかいをします。
 ろくろの爪痕4 コクソ切り
乾いたコクソのうわつらを、
平刀でコクソ切りします。
“前鉋”を使う事もあります。
 ろくろの爪痕 ペーパーあて
切ったコクソに、
#180空ペーパーあてをして、
盆裏全体を平らにしたところです。
めしべのコクソ2
桜のめしべが欠けています。
左の花弁の幅が狭いです。
 めしべのコクソ2
 花芯に錐で穴を開け、
 木片を差し、
 糊漆で接着しました。
 めしべのコクソ3
 乾いたら
 木片にコクソを盛って…
めしべのコクソ4
よく乾かして、
コクソを切って整形します。
丈夫なめしべに直りました。
 
葉脈のコクソ1
裏の葉脈が欠けています。
※ここでは先に
“ペーパーあて”(#240)
をしてあります。
 葉脈のコクソ2
 問題の箇所に
 コクソかいをして・・・
 葉脈のコクソ3
 乾いたら、
 1分小刀で
コクソ切りをして
 成形します。
 葉脈のコクソ4

 無事に成形完了です。
 
 カドのコクソかい込み1
木地のカドに“割れ”を発見
さっそくコクソ彫りをしました。

【※この“割れ”は、木固めの時に気が付きました。木地に木固めの漆が浸み込んでいるのが観察できますね。】

 カドのコクソかい込み2
 寒冷紗を貼るために、
 馬毛の“乾漆刷毛”で
 糊漆を塗っています。
 乾漆刷毛は、
 糊漆を扱う作業に
 なにかと調子良いです。
 カドのコクソかい込み3
 寒冷紗を貼り終えました。
 割れに対し糸目をバッテンに
 貼る、定番の“バイヤス貼り”
 です。
 麻布を貼ることもあります。
 カドのコクソかい込み4
 寒冷紗が乾いたら、
 軽く#240ペーパーをあてて、
 コクソをかい込みます。
 カドのコクソかい込み5
 コクソが乾いたら、
 彫刻刀で成形して、面を合わせ、
 #180空ペーパーで仕上げます。
 この際、“絆創膏”を貼ったような
 不自然な仕上がりは、NGです。


【コクソの作り方】

コクソの作り方1
小麦粉で作った糊です。
 コクソの作り方2
 目分量で、
  糊と等量の生漆を
  混ぜ合わせます。
 コクソの作り方3
 完全に混ざると、画像のように
 滑らかなキメになります。
 小麦粉で作った麦漆は“シン”
 と呼ばれます。
コクソの作り方4
 “シン”にケヤキの木粉と
 コクソ綿を練り込んでいます。
 自作の竹べらを使って混ぜ
 合わせ、耳たぶ位の弾力に
 調整します。
コクソの作り方5 
コクソができました(手前の山)。
奥の山は“シン”です。
作業中にコクソが乾いてきた時、
シンを補充して使います。
竹べらは火で炙って、
先を曲げてあります。

【面取り・ペーパーあての効果】

ペーパーあての効果#240(1) →
        before
ペーパーあての効果#240(2)
          after(by#240)
 ペーパーあての効果#150(1)
        before


 ペーパーあての効果#150(2)
         after(by#150)
※盆裏の“ペーパーあて”は、
 通常、“コクソ切り”の後で行ないます。



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